ファッションブランドの中には暗号資産(仮想通貨)決済を導入するところが徐々に増えていて、通常のクレジットカードや現金決済に加えて「仮想通貨で服を買う」という選択肢が出てきています。仮想通貨は匿名性が高く、セキュリティが万全の最高の暗号ウォレットで保管すれば従来の金融資産よりも安全な場合もあるため、特に欧米を中心にショッピングでの需要が広がりを見せているのです。
それに対応するためにブランド側も決済の幅を広げています。特に海外のラグジュアリーブランドを中心に導入例が増えていて、日本からでも暗号資産で買えるブランドが登場し始めています。そこでここでは、具体的にどのファッションブランドが対応しているのかを詳しくご紹介いたします。
なぜファッションブランドが暗号資産決済を採り入れているのか
ファッションブランドが暗号資産決済を採用する背景には、若い世代を中心にデジタル資産を保有する顧客が増え、支払い手段の多様化が求められていることがあります。特にオンラインでの国際的な購入では、送金手数料や為替の影響を軽減できる暗号資産は顧客にとって扱いやすい選択肢なのです。
また、暗号資産対応はブランドのイノベーティブなイメージ向上にも寄与し、Web3やNFTと連動した新しい購買体験を提供する足がかりにもなります。こうした理由から、多くのブランドが将来の顧客基盤を見据えて暗号資産決済を導入しているのです。
海外ブランドの事例
Philipp Plein(フィリップ・プレイン)
ドイツ人デザイナーを起点に活動しながらスイスを拠点とするラグジュアリーブランドであるPhilipp Pleinはファッションブランドにおける暗号資産決済の先駆け的存在で、2021年8月にオンラインおよび実店舗で暗号資産支払いを受け付けることを発表しました。具体的にはビットコイン、イーサリアムを含む15種類の仮想通貨を開始時点で受け入れていました。
その後、同ブランドはさらに対応通貨を増やし、店舗だけでなくECサイトでも暗号資産で支払えるチェックアウト方法を実装しています。具体的には支払い時に「Cryptocurrency(暗号資産)」という決済手段を選び、Coinifyという決済プラットフォームを通じて支払いを実行するという仕組みが用意されています。
このように、Philipp Pleinは「仮想通貨決済に対応=新しいラグジュアリー体験」、「デジタルネイティブ・富裕層仮想通貨保有者をターゲットにする」という戦略を明確に打ち出しています。
Balenciaga(バレンシアガ)
フランスのラグジュアリーブランドであるBalenciagaも、オンラインおよび一部旗艦店における暗号資産決済導入を発表しています。2022年5月には米国市場を中心にビットコインとイーサリアムでの支払いを可能にしました。
また、複数の決済方法を導入するブランドリストにはBalenciagaが上位に挙げられていて、「服を仮想通貨で買うブランド」という認知も得始めています。
Gucci(グッチ)
イタリアを拠点とする国際的ハイブランドのGucciも、暗号資産決済に対応する動きを見せています。例えば2022年2月頃から、米国の一部店舗で仮想通貨による支払いを可能にしました。
支払い可能な通貨としてはビットコイン、イーサリアム、ドージコイン、シバイヌ、エイプコイン等、複数の暗号資産が利用可能とされています。
Ralph Lauren(ラルフ・ローレン)
アメリカのラグジュアリー・ライフスタイルブランドであるRalph Laurenは、2023年4月にマイアミ店にて仮想通貨支払いを導入しました。対象通貨としてビットコイン、イーサリアム、ポリゴンなどが挙げられています。
このように、ラグジュアリーというカテゴリでも「仮想通貨決済を選択肢に入れる」方向が浸透してきています。
Farfetch(ファーフェッチ)
オンラインを中心とした高級ファッション流通プラットフォームであるFarfetchは、仮想通貨決済に対応していると公式サイトで明記しています。具体的には、複数の国で「Cryptocurrency is a direct payment method at checkout」という文言を掲載しています。
ただし対応国が限定されているため、必ずしも「すべての国・地域で仮想通貨決済が可能」というわけではありません。例として北米・南米・欧州に限定しているとの記述も見受けられます。
日本・国内ブランドについての状況
日本国内で「ファッションブランドが仮想通貨決済を導入済み」と明確に表明している情報は、現時点では海外ブランドほど豊富ではありません。ただし、関連する動きや技術活用の事例は見受けられます。
例えば、国内ファッションブランドのブロックチェーン技術活用の最新事例を紹介する記事ではブランド名としてBEAMS、グラニフ、ヒステリックグラマーなどが挙げられていて、NFT付き商品やハードウォレット付き小銭入れなど、Web3・ブロックチェーン技術を活用したファッションアイテムの展開を紹介しています。
しかし、これらは「暗号資産決済そのもの」を明確に打ち出しているわけではなく、「NFT」や「ブロックチェーン活用」といった技術革新・付加価値化の領域にとどまっているケースが大多数。また、ブランドとしての明確な決済手段として仮想通貨を受け入れているというケースは、国内ブランドでは今のところ見受けられません。
なお、国内のカジュアルブランドである ANAP(アナップ)は直接の「決済手段としての導入」ではないものの、ビットコインによる資金調達・保有などを積極的に行っていて、暗号資産領域へ取り組む姿勢を明白にしています。
いじれにしても、日本国内では大々的に暗号資産での支払いを打ち出しているブランドはまだない、というのが現状です。
今後に期待される国内展開
日本国内では、仮想通貨決済をブランドが本格導入するためには法令、税務、決済インフラ、交換レート変動リスクなど、クリアすべきハードルが山ほどあります。ですがファッションとWeb3/NFTの親和性が高まっていることや、若年層・デジタルネイティブ層の台頭、越境ECの拡大を背景に「ファッションブランドが暗号資産決済を導入する」という動きが今後加速する可能性が高いと考えられます。実際、先の例の通り、国内ブランドでもブロックチェーン技術を活用した新たな取り組みが紹介されています。
また、ファッションブランドではないものの、例えばビックカメラでは何年も前からビットコインでの決済を採用していて、当時から暗号資産利用者の間では大きな話題となっていました。それにともない、若者向けの革新的なブランドイメージもすっかり根づきました。
こうした事例が積み重なることで、ファッションブランド業界における暗号資産決済の普及にもより大きな期待が寄せられています。特に若年層を中心にデジタル資産を保有する人が増えるにつれ、ブランド側もそのニーズを逃さないよう、より柔軟で多様な決済手段を取り入れる流れが今後さらに加速すると考えられます。実店舗ではQRコード決済の延長線上で暗号資産を扱えるようになる可能性があり、オンラインストアでは複数チェーンに対応した決済ゲートウェイが標準装備となる未来も想像に難くありません。

